top of page

リモートセンシング

現在、反射分光を用いた光合成研究に注目しています。そのきっかけになったPRIというパラメータを紹介します。

 

PRIはPhotochemical Reflectance Indexの略でリモートセンシングの分野で使用されています。生態学の分野では反射分光を用いたリモートセンシングは良く行われており、植物群落を離れた場所から総合的に検出したり判断するための植生指数が多く存在します。代表的な指数としてNDVIなどがあります。PRIもそれらの1つで、特に光合成と密接に関連している指数として理解されています。

PRIは90年代の初めごろ、Gamonらによって報告されたました(Gamon et al., 1990  Oecologia)。彼らは植物の反射を捉えた際、光強度依存的に反射率が低下する530nm付近の波長帯に注目しました。570nmをリファレンスとして、531nmの変化率を表すPRIパラメータを提案しました。

 

PRI = (R531-R570)/(R531+R570)

このパラメータは光依存的に変化するだけではなく、低温などの環境の変化においても変化します。さらに、GamonらはPRIとEPS ratio (トータルのキサントフィル色素量におけるビオラキサンチンの割合) との間に高い相関があることを見出しました。そのため、PRIは熱散逸を表す指標であると認識されています。

光合成の熱散逸システムに関してはクロロフィル蛍光解析などを用いて非常によく研究されており、In vivoでキサントフィル色素の動態を間接的に見積もることもすでに可能です。しかし、クロロフィル蛍光解析には暗処理が必要であったり、飽和パルス光が必要であったり、光環境下でのリアルタイム測定においてはいくつか課題がありました。一方、リフレクタンスは光環境下で測定できるという利点があるため、熱散逸系を含む光合成測定に有効に活用できないかと思い、PRIパラメータに注目しました。

しかしながら、これまでPRIが実際に何を検出してるパラメータであるか検証されていませんでした。そこでシロイヌナズナの変異体を用いて生理学的に明らかにすることを試みました。解析にはNPQが誘導されないシロイヌナズナのnpq1npq4を使用しました。npq1はキサントフィル色素であるビオラキサンチンとアンテキサンチンをデエポキシ化するVDEの機能欠損変異体で、npq4はPsbSの変異体です。VDEもPsbSもチラコイド膜ルーメン内にプロトンが高蓄積すると誘導されるNPQシステムに関与していることが知られています。また、npq1のゼアキサンチンの蓄積は極めて低いのに対し、npq4ではその蓄積量が野生型と同等であることも知られています。これらを用いることでPRIとキサントフィル色素、NPQの関係を検証しました。

検証にはPRIの測定と同時にクロロフィル蛍光を測定することで検証しました。図の黒のラインは野生型のlow lightにおけるリフレクタンスの挙動ですが、光強度が高くなるとリフレクタンスは若干下にシフトします(赤のライン)。一方,npq1の場合、この下方へのシフトが見られなくなりました。npq4は野生型と同じようにシフトが見られました。

531nmと570nmから算出されるPRIと光強度との関係をまとめると、このように野生型とnpq4では光依存的にPRIは変化するのに対し、npq1ではその変化が極めて低いことは分かります。この結果は、PRIがキサントフィル色素を反映したパラメータであることを示唆しています。

キサントフィルサイクルは植物が環境ストレスを感知した時に余剰エネルギーを逃がす熱散逸システムを誘導させるメカニズムであることが知られています。例えば、低温や高温などで酵素活性が低下しているような条件下、乾燥環境などの気孔閉鎖時におけるCO2取り込みの抑制時、強光環境下においては、いずれも光合成のCO2代謝反応速度に対し、上流の電子伝達反応が過剰になることから、チラコイド膜において高いプロトン勾配が形成されます。ルーメンpHの低下はVDEを活性化させ、ビオラキサンチンからゼアキサンチンへの色素変換が誘導します。つまり、キサントフィル色素の挙動から植物のストレスを検知することが可能です。PRIはこの植物ストレス検出に有効であると考えています。PRIは反射分光であるため、植物を非破壊的に測定できるだけではなく、クロロフィル蛍光解析のような暗処理や飽和パルス光も不必要なため、光環境の中、リアルタイムにカメラで検出が可能であるという利点があります。

4.jpg
3.jpg

現在、PRIパラメータを用いた植物の環境ストレス検出の研究をすすめています。

左: ハツカダイコンの乾燥ストレス状態をドローンで撮影している様子

真ん中:ハイパースペクトルカメラを用いてさまざまな波長を同時に獲得します

右:シロイヌナズナ変異体のPRIシグナルの差をカメラで可視化します

参考文献

Kohzuma K, Hikosaka K. (2018) Physiological validation of photochemical reflectance index (PRI) as a photosynthetic parameter using Arabidopsis thaliana mutants. Biochemical and biophysical research communications. 498(1):52-57   

上妻馨梨 (2018) 「葉緑体チラコイド膜のルーメン pH 可視化を目指して」光合成研究  28(2): 93-97

bottom of page